tagboat Galleryでは、Namiko Kitauraによる個展 Whiteout を開催します。
イタリア、イギリス、フランスなどヨーロッパでの活動を経て、現在は日本でも活躍するNamiko Kitaura。
VOGUEなどファッション誌の表紙や広告写真を多く手掛ける一方、自身の感覚を反映した作品を発表し続けています。
本展覧会では、ファンの皆様の熱い声にお応えし、Namiko Kitauraによる大型新作を多数展示します。
花々が芽吹き始める季節に、国境や言葉を超えた、自然や肉体の中に宿る普遍的な美の世界をご堪能ください。
2018年3月9日(金)~4月6日(金)
月-金 12:00-19:00
オープニングレセプション:3月9日(金)18時~20時(作家在廊)
3月24日(土)12時~17時も作家在廊予定です。
CONCEPT
この混沌の世界にあって、時として、私の中には強い思いが吹雪のように吹き荒れる
それはまるでホワイトアウトのようだ
だがその先には、すべてが溶け合う、美しき静謐が広がっていた
*ホワイトアウト(Whiteout)とは、雪、霧、雲などによって視界が白一色となり、方向・高度・地形の起伏が識別不能となる現象。
ホワイトアウトの状態に陥ると、視界不良により錯覚を起こしてしまい、雪原と雲が一続きに見える。太陽がどこにあるのか判別できなくなるため、天地の識別が困難になり、方向感覚も失われる。
BIOGRAPHY
東京生まれ。
Istituto Europeo di Design Milano, University of the Arts Londonを卒業後、ベネトン社主宰のアーティスト・イン・レジデンスFABRICAで日本人初の写真家としてスポンサーを受け経験を積み、ヨーロッパ各地で活動。その後も多数の企業からスポンサーを受ける。
植物や風景、人の肌など、アノニマスな被写体を通して、アブストラクト、そしてシンボリックに、人のDNAレベルでの記憶や、命の儚さや美しさ、をテーマに、日本人特有の自然観を生かした作品を発表。外側にある事物を通して内面の感情や美を表す、ある種、借景の思考や俳句表現のような日本古来の表現手法を用いて、自身の体の奥底に眠っている感情を作品に内包させる。
また、作家として社会に潜む様々な問題と向き合い、その裏にある言葉にならない感覚や感情を独自の撮影手法にて視覚化し、国境を超えたビジュアルコミュニケーションを目指す。
現在、企業のアートワークや建築プロジェクトなど、多岐に渡ってのコラボレーションも実現させ、新しい分野でも活動の幅を広げている。
Selected exhibitions
2015: ‘Recollection’ @ CANON Gallery S, Tokyo
2014: ‘Yokohama Paratriennale 2014’ curated by Sachiko Namba @ Zou-no-hana terrace, Yokohama
2012: ‘KEEP A BREAST JAPAN Tokyo Love Show’ curated by Yasha Young @ Omotesando Hills, Tokyo
2012: ‘The Common エチカを巡る旅’ curated by Arata Sasaki @ GYRE, Tokyo
2012: ‘空 Kū’ Solaé art gallery project @ Akasaka Biz tower, Tokyo
2011: ‘Chic Art Fair 2011’ with Galerie Florence Moll @ La Cité de la Mode et du Design, Paris
2011: ‘Domestic Stills’ Solo exhibition @ Tokyo gallery, Tokyo
2008: ‘Out of Body’ video installation @ Open Eye Gallery, Liverpool
2006: ‘Tokyo Photo View’ sponsored by Polaroid, curated by Shigeo GOTO @ Roppongi Hills, Tokyo
2005: ‘Untitled’ @ Via Ventura ex-Faema, Milan
Awards
2015: Sponsorship by CANON (Japan)
2014: Sponsorship by Shiseido
2006: Sponsorship by L’Oreal Garnier Paris (France)
2006: Sponsorship by CANON (France)
2003-2005: Residency @ FABRICA the Benetton communication reserach center (Italy)
2005: PHoto España 2005 ‘Descubrimientos – One of the best selected portfolios’ (Spain)
2004: Sliver prize at Nagoya design DO competition (Japan)
Selected Publications and Bibliography
2010: ‘NY ARTS’ Vol 15 (US)
2009: ‘Hair’em Scare’em’ by gestalten (Germany)
2008: ‘IMAGES magazine’ November 2008 ‘Dior J’adore sous l’objectif de 5 photographes’ (France)
2006: ‘PHOTO’ December 2006 ‘Jeune Talent’ by Agnès Grégoire (France)
2006: ’Next Level’ Vol 05 (UK)
2005: ‘Great Escape’ by gestalten (Germany)
Selected clients
UN / WHO
Reporters Without Borders
CANON
NIKON
Polaroid
United Colors of Benetton
Shiseido
Cartier
Dior
Kenzo
L’Oréal
展示作品
RECOLLECTION – 記憶の中の私たち
優れた写真というものは作家の生きた感情の記憶であり、同時に、鑑賞者自身も自らの記憶をそこに投影させることで、日常の中で取りこぼしてきた感情を昇華させうる、一種の物語的な構造を有している。記憶から忘却された断片を拾い集めて、その一つひとつに限りなく寄り添い、そのものの実存を捉え直すという試みを続けてきたNAMIKO KITAURAは、そのようなカタルシスを生む強固な物語構造を持った写真を世におくり続けてきた。多くの優れた器を持つ物語がそうであるように、彼女の作品には、生命の儚さと強度を持った美が併存しているのを見てとることができる。まるで混沌の中にある静謐の美とでも言おうか。
このような両義性は、人間の進化の上で、生成と消長が同時に発生しているように、藝術という領域でもまた、時という篩いに打ち勝つ為に必要な要素であることは言うまでもない。NAMIKO KITAURAの作品内で、この両義性が破綻せず、見事な緊張感を持って統制されているのは、彼女自身が、どんなに閉ざされたものであっても、いつかは例えそれが僅かな瞬間であっても、情緒的な繋がりが生じうるかもしれないという内なる期待を秘めて、そのものにそっと寄り添い続けているからだろう。その姿勢は母なるものが子に対して注ぐ、無条件の愛のまなざしとも似ている。
考えてみれば、私たちが絶対的な守護の下にあると最初に感じたであろうときは、母の胎内にいるときで、その世界ではすべてが繋がり、一体化しているとさえ感じられていた筈だ。そしてそれは今でも私たちの最深奥にある、無意識の記憶の領域に触れ得ぬものとして眠っている。しかしながら、NAMIKO KITAURAの作品に対峙すれば、その奥底に沈滞していた無意識の記憶が揺らぎながら想起されてくるのがわかるだろう。どこかで感じた記憶がゆらゆらと浮かびあがってくる。もしも個人が持つその記憶の断片が彼女の作品を通じて投影され、再び集め直すことができるなら、私たちは人間の無意識の深層に存在する、個人の経験を越えた、すべての人間に共通する繋がりとしての巨大な集合的無意識に触れることになるだろう。それこそが、混沌に満ちた無慈悲な世界の中にあって、私たちが見出さなければいけない、自己と他者、自己と世界を意味づけ、関係づける、強靭な繋がりを持った新たな物語なのだ。
佐々木新 小説家・クリエイティブディレクター